大人の図鑑カフェ

ご推薦本コーナーNo.14『ものわりのはしご』

ご推薦本コーナーNo.14『ものわりのはしご』

その道のプロの方にお願いして、その方が参考にされている本を願い倒して紹介して頂くこのコーナー。「店長の眼」だけでは偏りが出るため、毎度毎度「その道のプロ」を口説き落とすわけですが。皆様遠慮なさる方が多いため、いつも難儀する問題のコーナーでもあります(T-T) ※年末までの展示予定です※

前回のご推薦本の後をどうしよう。コロナの関係でその道のプロの方に会いに出かけたりすることも控えていたことも影響し、難儀していたところにお客様が「本書いたから興味があったら読んでみて」と。読んでみたらば面白い!これならとお願いし、ご紹介のバトンを繋いで頂きました。今回はサイン本ならぬ、著者さんの落款入り(市販本にはございません)です!

<御推薦本と御推薦文>
『ものわりのはしご 明治期のかな文字運動・大和ことばと平がなで綴る科学書 』
原著:トマス・テイト/仮名訳:清水卯三郎/現代語訳注:多田愈(早稲田大学名誉教授)+Amazon On Demand(2021年)

<今回は著者様ご本人の推薦ですので、bookdateから推薦文を引用>
ご推薦人(お客様):多田愈さま(愈々庵)

「ものわり」とは「物を分ける」意味で「化学」と言う名前が定着する前「分析術」と呼ばれたこともあり、ここでは「化学」の意味。また「はしご」は明治期に汎用された「入門書」の意味の「階梯」を話し言葉にしたもの。明治初期かな文字運動を展開していた清水卯三郎は平仮名と話し言葉で書いた教科書があれば、漢文の素養が無くとも科学を学ぶことが出来るのではと考え、持論のかな文字運動の実践書として本書を書いた。

<同時展開:昔なつかし理科実験道具販売中!(新古品につき食用にはお使いにならないで下さい)>
・試験管(薄緑)+木の試験管立てセット 1,000円(税込)
・メスシリンダー 1,500円(税込)
・リービッヒ冷却器 2,000円(税込)etc. (全部で20品目くらいございます)

<店長の感想(ものわりのはしご)>

この本の序文に、とても興味深い箇所がありましたので、長くなりますが引用します。是非、都知事閣下に読んで頂きたいと思います。為政者の言葉は、民草の心に響いてナンボの世界です、江戸の漢学から欧米留学を経て仮名文字運動に転じた彼の人の言葉は、グローバリズムの只中にある様々な方々に響くものと私は思います。

_以下、現代語訳より抜粋(漢文という言葉を横文字語と読み替えてみてください)_

 昔の人は昔風の文章を書き、世人を教育したけれども、漢文を訳すときはやはり漢文への習性が現れ、自然にその趣きが残る。そこで近頃は漢文調に訳し、結局は漢文でなければ意味を尽くさないなどと称して漢文を書き、漢詩を読むことを学問と称し、それらの人のもてあそび物となっている。こうしていつの間にか世人を教育することを怠っている。 およそ人にその言葉があるのは、その心情を言い伝え、情景を描写する符号である。この符号を記すのは文字すなわち「いろは」を用いる。そうだとすれば、人の口で語られることは、なにごとも「いろは」で書き写す事が出来ないということはないはずである。しかしこのことはヨーロッパでも流行って、ラテン語でなければ理解できないと広く唱えられたこともあったという。このようなことはみな未発達な社会の様子で、自国語を書く前に外国語を読み書きする習慣が出来てしまったもので別に不思議なことではない。 それをあの国の文が読みやすい書きやすいなどと称して世人を驚かせる人もあるけれども、それは「山地の人間は平地を歩き難い」と言うのと同じ言い分である。

〈中略〉

 そこでわが国の人もヨーロッパのように、拙いだの卑しいだの言わないで、理解できることを第一義として、日本語で書き、多く出版されれば、段々と習うより慣れろのことわざ通り、誰にも読みやすく、書きやすいものとなるであろう。まして外国語より使い慣れた自国語であれば、自然と整った内容の書も現れ、語法も定まるのではないかと考えていた。

〈後略〉

明治7年(1872)戌の年睦月(正月)清水卯三郎 記す

_引用ここまで_

 一言のお断りが入りますが、専門用語には国際共通用語があったり、また、他国の文化文脈を含めて訳すことが難しいものも沢山あります。その結果、用語も全て和語でという著者の冒険的なこの試みも、悲しいかな時代が早過ぎたため、省みられる事なく世に埋もれてしまいました。(現在、日本の図書館で保存されているのは図書横断検索システムで3件しか出てきません)

 しかし、無分別に外来語(横文字単語)を使おうとする会見を聞くにつれ、耳通りが良い(悪い意味で右から左に空虚に抜けていく)言葉で煙に巻くのではなく、民草の心を育てようとする肉声(本心)が聞こえて来ないと感じます。150年も前の先人、しかも言語学でも国語の教科書でもない、化学という未知を”解明”する方法を身近にしたい(開化)という一心で書かれたこの書物の試みは、感染症という未知を身近に置かねばならなくなった今現在、学者先生が言葉を尽くさねばならない事なんじゃないかと私は感じました。昨今は何事においても言葉遊びが過ぎますね。←お前が言うな。ですね(^^ゞ

 また、明治期・大正期の化学本や文献を読んでいると、変態仮名使いに悩まされる事も多いと思います。そういった際に、辞書や用語集としてもご利用頂けると思います。でも一番は「化学よみもの」としての面白さ、ですね(^_^)

<ジョイントフェア:うえたに夫婦さまの身近な化学本の世界>

 ご推薦本フェアNo.2でお世話になった「ビーカーくんとそのなかまたち」も、同じく理科や化学を身近に感じて貰おうという試みは同じ。ということで、ジョイントフェアとして再登板を頂きました!「理系苦手!」と思い込んでいる方々も(店長は文学部卒のバリバリ文系脳)、あれ?こういうのも理科なの?知ってると結構役に立つかも!(ぼくらの身の理科)と、するりストンと腑に落ちる。なかなか面白い世界が皆様をお待ちしています。