その道のプロの方にお願いして、その方が参考にされている本を願い倒して紹介して頂くこのコーナー。「店長の眼」だけでは偏りが出るため、毎度毎度、「その道のプロ」を口説き落とすわけですが。皆様遠慮なさる方が多いため、いつも難儀する問題のコーナーでもあります(笑)既に3月初日から展示を始めていたのですが、記事が追いつかず大変失礼致しました。※6月末までの4ヶ月展示予定です※
今回はCGクリエイター様の御推薦本として、大正期を中心に活躍された版画家、川瀬巴水さんの木版画集を取り上げてみたいと思います。実は3冊の御提案を頂きまして( ・CGソフト技術解説本・人体組織ポーズ集・川瀬巴水木版画集)その中から「CGであれマンガであれ、好きな作家さんが一番紹介にも熱が入るので」という理由で、こちらの版画集とさせて頂きました。
<御推薦本と御推薦文>
『川瀬巴水 木版画集』
川瀬巴水+阿部出版(2009年)
<今回は対話形式で御推薦本の良いところをお伺いしました>
ご推薦者(お客様):CGデザイナー宮地福太郎さま
店「(三冊目に手を取って)これはまたずいぶん豪華な本ですね。
パッと見では木版画に見えませんし、
色使いもモダンでコントラストがハッキリしている。
江戸期の__例えば葛飾北斎など__と比べても、
かなり多色に見えますね。
ちょっと失礼して裏を拝見。
、、、おおう。やはり良いお値段で。(笑)」
宮「そうなんです。文明開化後に西洋画の影響も受けた方なので、
構図や色使い、
コンストラストなどにもかなりメリハリがあります。
それでいて、日本の伝統の太線というか、
慣れ親しんだ木版の要素も崩していない。
西洋版画と日本版画の良いところ取りというか、
懐かしさと現代が融合している、そんなバランスが好きなんです。」
店「現在のお仕事に活かされているところはございますか?」
宮「ええと。
これは【好きな本】としてのご紹介になってしまいますが(笑)
そう言われてみれば、
現在の仕事で日本の国宝などをCGで再現したりしている訳で、
古作を現代の手法でどう表現するか?
という観点では似ている気がします。」
店「ポートフォリオ(作品ファイル:後述)でも拝見しましたが、
あの運慶快慶作、
東大寺南大門の金剛力士像の再現CGは凄い迫力でしたね!」
宮「造形に1ヶ月、質感の塗りに1週間ぐらい掛かっていますね。
質感については色々と怒られたりもしました(照れ笑い)」
店「え?あの完成度で怒られるんですか、、、
かなり厳しい世界ですね。」
宮「そんなときにこの版画集を見るとほっとしたりします。
描かれた時代が時代ですから、
今の同じ場所とは全然似付かないんですけれど、
なぜか日本のどこかにまだありそうな、
郷愁を誘う、というのもまたこの版画の魅力かもしれません。」
店「確かに、東京は様々な地域から人が集まっている場所ですから、
こういった画集が身近にあると、
魅入ってしまうのも良くわかります。
私も、三冊ご提案を頂いた中で、
この本に一番惹かれた理由もそこでした(笑)」
宮「結局、技術的な面というよりは、
”好き”という事が一番なのかもしれませんね。」
店「いや、それってかなり大事だと思いますよ。
心の糧というか、
自分が素に戻って一旦リセット出来る本を持てるというのは
ストレスMAXな現代日本においてとても貴重だと思います。
_本日は貴重なお時間を頂きまして有り難うございました_ 」
<店長の雑感>
・実は私、浮世絵や版画ののっぺりした線画が苦手でもありました。
なので開店5年目になるごく最近まで、
日本版画は意図的に入れていなかったんです。
それの考えを改めて、
昨年入ったのが漫画家「ますむらひろし」さんの描く
ATAGOAL×HOKUSAI『ますむらひろし 北斎画集』でした。
いわば、マンガの世界と版画の世界の融合作品でしたが、
北斎の富嶽三十六景と、漫画アタゴオルの世界のマッチングの妙と、
ますむらひろしさんの富嶽三十六景の比較解説がとても面白くて。
(実際に「すみだ北斎美術館」にて両者が並列展示されました)
その解説の中に”北斎の絵には遠近法が存在しない”という指摘がありました。
言われてみれば、確かに近景や遠景は描かれているんですが、
その繋ぎ方が力業というか、
舞台の書き割りのように近景・真ん中・遠景と
ハッキリ分かれてしまっているんですよね。
だから、太鼓橋が現実ではあり得ない形になっていたりする。
・そういった解説を多少なりとも読んでいたからでしょうか、
川瀬巴水さんの木版画集を見て、彩色のコントラストが綺麗だな。
と感じる一方で、あ、パースがある。遠近法がある。
それで版画の中にも立体感があり、
のっぺりした印象を全く受けず、親しみを持って受け入れられたんだなと
よくよく眺めていて謎が解けました。
もちろん、北斎の執拗なまでの描き込み(彫り込み)と、
単純化できる部分を記号化したりする大胆な手法も今では好きですが、
どことなく現代に通じる懐かしさ、を感じるという意味では、
川瀬さんが木版画のバトンを現代に繋げてくれているような気がしました。
・また、同じ版(だと思うのですが)で刷る色を全く替えて、
「春と秋」「朝と夕暮れ、夜」など
手変わりとして楽しんでいる風に見えるのも、
巴水さん自身と、彫り師、色師さん更に版元との阿吽の呼吸というか、
そういった互いの信頼関係を大切にした絵師さんだったのでしょう。
作品を眺めた後に最後の解説を見ると、
その深みが一層際立つ気がします。
最初は何も考えず、気に入ったらじっくりと。
何度も楽しめる良本です。
<御推薦人紹介>
宮地福太郎さま
株式会社NHK ART
総合美術センター
デジタルデザイン部
CG映像 CGデザイナー
<店内にポートフォリオ(作品集)がございます>
宮地様の御提案により
社外秘で無いもの(既に雑誌などで紹介されているものなど)を
ポートフォリオとして併置させて頂きました。
周囲に日大芸術学部などを抱える当店としては、
企業就職やフリーランスでの持ち込みに必ず必要になってくる
ポートフォリオの作り方としても、
現職の方の作品はデザインに携わる方の参考や励みになると思います。
宮地さま、何から何までありがとうございました。
・NHKスペシャル『運慶と快慶新発見!幻の傑作』
(国宝 東大寺南大門の金剛力士像)
・NHKスペシャル『ディープオーシャン』深海魚
・自主製作の下絵(塗り前)
「シーラカンス」や「孫悟空」
・浮世絵風CG「himawari」「rain」「oiran」
・番組「チコちゃんに叱られる!」
CG製作チームの集合写真