大人の図鑑カフェ

“江戸の粋” そば猪口の絵解き謎解き(ご推薦本 No.19)

“江戸の粋” そば猪口の絵解き謎解き(ご推薦本 No.19)

その道のプロの方にお願いして、その方が参考にされている本を願い倒して紹介して頂くこのコーナー。「店長の眼」だけでは偏りが出るため、毎度毎度「その道のプロ」を口説き落とすわけですが。遠慮なさる方が多いため、いつも難儀する難産のコーナーでもあります(T-T) ※2024年10月末日終了予定です(延長があるかもです)※

実は3月下旬より島台のフェアコーナーにて展示販売をしておりましたが、店長の不徳により、記事化が大変遅れましたことをお詫び申し上げます<m(__)m>。

銚子電鉄さんのファンブック後の推薦書籍を悩んでいた頃、「判じ絵と地口絵(練馬区ふるさと文化館企画展図録)」をお買い上げになったお客様が『江戸の庶民文化として、”そば猪口” を取り上げてもらえないか』とのお誘いと3冊の寄贈本を頂戴しました。一目見て「これは面白いぞ!」と感じ、ご推薦本フェアにご協力を賜ることになりました。(お客様が著者さんだったパターンです)

なんと!今回は著者さんのサイン&落款入り(市販本にはございません)です!

【ご推薦本フェアNo.19】※今回は3冊同時です※
・「そば猪口の文様 絵解き事典」
講談社 2023 飯田義之・岸間健貪(共著)
・「絵解き謎解き 江戸のそば猪口」
ブックハウスHD 2012 岸間健貪
・健貪の「江古田在から江戸を眺める」
ブックハウスHD 2019 岸間健貪

今回は著者ご本人の推薦です
・ご推薦人:岸間健貪さま
・ご経歴
1947年(昭和22)、福島県生まれ。30代からそば猪口の文様の研究に重点を置いた活動を始める。「江戸の人々との心の交流」をテーマに、40年かけて蒐集・研究した逸品のそば猪口をオンラインミュージアム「そば猪口美術館」で公開。戸栗美術館で「そば猪口展」を開催、BS朝日「極上お宝サロン」に出演。江戸落語にも造詣が深く、十一代桂文治氏より手ほどきを受け、2024年4月には文治氏との対談形式にて落語にまつわるそば猪口の公演なども行う。

【そば猪口美術館】
http://sobachoko.jp/

・ご推薦文:
 誰もが偉大な先人や尊敬する人の言う事には、まいってしまうものだ。そうした既成概念に囚われていては見えるものも見えなくなる。他人から笑われても、狂っていると蔑まれても、自分の「眼」を信じることから始まる。そば猪口の文様は多様で、これまでも多くの人たちがその楽しさを取り上げてきた。しかし、そば猪口も骨董というジャンルにはめ込まれてしまうと、とたんに製作年代や産地・窯そして売買価格が重要な事とされ、文様を楽しむという最も大切なことを見る眼を曇らせてしまいがちだ。
 現代人の美術工芸品をみる「眼」からではなく、江戸人の洒脱な「眼」で文様に接する。これが私のやろうとしてきた事であり、それによって開かれた扉の多い事。今日私たちは残念ながら江戸庶民が楽しんできた歌舞伎や古典文学に日常的に触れる機会を失ってしまっている。そこを透かして観る古い器の世界は新たな感動を与えてくれるはずなのに。

<店長の独り言(蛇足)>
 今や小料理屋の向こう付けなどにも使われたり、古美術・骨董品として扱われるそば猪口、当時は庶民の日常雑器でした。絵柄や文様は多岐にわたり、和歌集や歌舞伎、狂言、落語や講談、そして日常の風物に関わるものなど実に様々で面白い。
 江戸期は識字率もそれほど高くなかったので、文字では無く絵や文様を使って伝える「判じ絵」や「地口絵」で食べ物屋やら庶民生活のあらゆる場面で使われました。現在では言葉遊びやクイズ番組など、頭の体操として再注目されつつあるようです。
 話を江戸時代に戻しますが、識字率うんぬんの前に、江戸の庶民は大衆娯楽として、歌舞伎や狂言、落語や講談に親しんでいました。その結果、さまざまな古典名著をそらんじており、洒落言葉や掛詞に引用しては日常の言葉遊びとして積極的に用い、そういった言葉遊びの文化そのものが “江戸の粋” の一つだったろうと私は感じました。それは時に日常のほほえましい一コマであったり、ときに痛烈な風刺ともなったことでしょう。それは江戸府内に限らず、関西(上方)ほか全国で花開いた文化だったはずです。
 かえりみて現在、自戒を込めて書きますが、どれだけの方が古作名著に親しみ、それらの豊かな “江戸の粋” をその身に親しんでいるでしょうか。それを【教養】と書いてしまうのは “粋” の道を外れると思いますが、「落語のオチがわからない」、「とっさに言葉を返せない(返歌や川柳)」など、江戸期までずっと日本人の心の奥に通底してきた文脈が、断たれてしまっているのではと思い改めた次第です。

 とはいえ、今回ご紹介を受けました3冊は『そば猪口から感じる江戸の粋、の、”かけら” です。』(そば猪口は陶器や磁器なだけに……。寒っ。)ですので、かしこまって読むようなものではありませんので安心して下さい。fumikuraは趣味人(蒐集家)が紐解く、心の栄養になるような図版本を主体としておりますので、3冊それぞれに図版が多く、とても読みやすい本になっています。

1)そば猪口の文様 絵解き事典(税込 2,420円)
  そば猪口の文様を見ながら、その元となった題材の引用や図案を全編カラーページで同時に載せる事で、初心者でも楽しく絵柄の謎や粋に触れることが出来ます。どちらかというと読み解き資料(図鑑)として眺めたい方に優しい本です。

2)絵解き謎解き 江戸のそば猪口(税込 2,200円)
  こちらは、日常に起きた出来事をそば猪口の絵柄に絡めて楽しむ、そば猪口エッセイともミニコラムとも呼べるような1冊。落語に親しむ著者らしい語り口で、ときに洒脱だなぁと感じる箇所があれば、ストンとオチる微笑ましさもあり、引き込まれる本です。好きなところから読める、知識のつまみ食い感もあるため、気分転換用に側に置いておきたい本でもあります。出版不況のこのご時世、装丁や製本がとにかく豪華で、お値段を見て安すぎてビックリしました。

3)健貪の「江古田在から江戸を眺める」(税込 770円)
  こちらは練馬区江古田周辺の郷土史や民俗史を、そば猪口というフィルターを通して眺めた1冊。もともとが地元紙「江古田新聴」(江古田文化倶楽部)への寄稿としているため、現代練馬に遺る江戸期の面影を追いつつ、そば猪口に描かれた民俗や風俗習俗と照らしあわせながら、味のある語り口でスッキリまとめられています。こちらもそば猪口エッセイに郷土史のエッセンスを加えたような読みやすさ。味の濃い洋食ばかりでお腹いっぱいな世の中、箸休め的に江戸文化を食するように摂るのも、また “乙” だなぁと感じる読後感です。