サウンドマスキングシステムは、主にオフィス環境を整える際に使われる用語です。“音環境”を整備し、例えば空調音や環境音楽がわざと流す事で隣室(例えば会議室や商談室)から小さく漏れてくる仕事上の秘匿やプライベート会話を聞こえなく(マスク)したり、オフィスのスピーチプライバシーの改善、生産性向上に役立たせようとするシステムを指します。
さて、それでは飲食店や店舗では関係ないかというと、そうでもありません。飲食店(特にカフェ)では、大概のお店がBGMを小さな音量で流していますし、前職の弁当屋でも、客溜まり(引き取り待ちの空間)にBGMが流れていました。書店でも小さくですがBGMを流している店舗もありますよね。この3つは、実際に店長が勤めていた職場の経験と、その時々にBGMを流すそれぞれの理由を聴いて納得してきました。
それにはオフィスと同じように3つの効果を期待してサウンドマスキングを取り入れていると思われます。
1)無音の空間は緊張する
静かすぎる空間は、慣れない場所だとちょっと緊張します。
図書館だったり、自習室だったりと公共機関にはまだ割と残っていますが、こと、商売という意味で考えると「緊張=居心地の悪さ」になります。そんなわけで、商業施設(店舗)では緊張をほぐす目的でBGMをかけています。
2)不快な作業音(声)を消す
これは弁当店や飲食店(カフェも含む)で教わった事です。例えば調理中に出る音(金属のボウルが落ちる、皿が割れるetc.)を、なるべくお客様に聞こえないように打ち消す効果があります。
オーダーを通す際に独特な符丁を用いる場合にも、お客様に解らない符丁(もしくは言語)は不快と取られる場合も有ります。もちろん”おもてなし”をする側の不要な私語は慎むべきですが、ある程度の会話を誤解されないためにも、作業音(作業声)のマスクは大事だったりします。
3)お客様同士のプライベート会話をある程度かき消す
個室やよほど大きなプライベート空間が確保されている大店以外、基本的に隣席の会話は漏れ聞こえてしまうものです。そういった「個人情報の流出を出来るだけ防ごう」という意味で、お客様の声の大きさ(賑わい)に連動して、BGMの音量を上げ下げする事も有効です。
このような観点でお店を見てみると、
店主の意図する・しないを別にして、それなりに無意識に、
サウンドマスキングが日常的に行われている事が解るかと思います。
☆では店内BGMの音量やジャンルの適切な選び方は?☆
・店内の雑音や賑わいで音楽が全く聞こえなくなる場合は小さすぎる
・反対に大きすぎるとお客様にとって耳障りとなります
・ジャンルについては、お店の雰囲気を重視することになりますが、
お客様の話を遮ったり、思考の邪魔をするジャンルは不適と教わりました。書店で例えると、本を選び内容を読んでいるお客様に対し、歌詞付きの音楽は本の内容を吟味しようとする思考を妨げます。
また、飲食店もお客様の会話の切れ目に歌詞の単語が飛び込んでくると、それもまた、お客様の歓談を途切れさせてしまう原因ともなりかねません。
そういった意味で有線放送などの選曲では懐メロや流行曲でもインストゥルメンタルの曲が多いのはお気づきになるかと思います。
☆さて次に音量の目安です☆
テーマでは”音量”と書きましたが、
ここでは「音圧」という単語が出てきます。
よく、騒音などを表す単位として登場する「db:デシベル」。(本来は気圧と同じくPa:パスカルなんですが音楽業界ではこう呼ぶようです)ほぼ音量と同じと考えて差し支えないですが、音の密度を表す単位なので、実際には同じ音量でも密度によって音が大きく聞こえたり小さく聞こえたりします。
現在はスマートフォンのアプリなどで測定出来る物があります。(「騒音計」「騒音測定器」等のキーワード検索で出てきます。私は音響演出家ではありませんので、無料アプリの「SLA Lite」を使っています。)
では、具体的に日常で感じている音の音圧レベルを書いてみましょう。
・20db:ささやき声
・40db:静かなオフィスの中
・60db:半径1mでの普通の会話
・80db:電車の中
☆fumikuraでの実践例☆
開店当初より音量やジャンルについては気を遣うようにしていましたが、(基本的に音量小さめのジャズ)店内の音響設備の度重なる故障により、実を言うと出力が一定しておりませんでした。
(例:BOSEスピーカー出力→超伝導スピーカー出力→レジiPad出力)
これでは店の場所によって音圧が一定に保てず、調整に難がありました。また、一部フェアにてBGMを変えた際にも耳障りとの苦情が来た事もございます。(8bitゲームミュージック、ケルト音楽集など)
それを踏まえまして、
休業期間中に開店当初のBOSEスピーカー接続に戻せるよう修理を行い、ようやく”音環境”の整備に取りかかる事が出来るようになりました。
さて。
通常営業時の選曲(JAZZ)に関しましてはお好きな方も多いようで、よく曲名やCDをお尋ね頂く事がございます。youtubeの【fumikura book cafe barチャンネル】の再生リスト「店内CafeMusic」をご参照下さい。有線等のサービスではなく作権管理団体であるJASRACと直接契約してyoutubeの楽曲を流しております。
音圧レベルは導入直後という事も考えまして、
お客様の賑わいや静かな環境下、また、場所による音圧レベルのサンプルを測定中です。たまに店長の携帯がポツンと置かれる事がありましょうが、それは音圧レベルのサンプル測定(※もちろん会話の内容を録音しているわけではありません※)ですので、しばらくはご勘弁下さい。また、音が大きすぎる場合などは遠慮無くお伝え下さいませ。皆様の声と共に、より良い店の音楽環境を作っていこうと考えております。
理想的な音圧としては、昨今の新型コロナ禍での会話の音量=飛沫感染力とされておりますので、店内各所において半径1m以内の普通の会話(60db)ぐらいの基準でBGMの設定を考えております。そうなりますと、BGMが聞こえにくい状況になる場合は店内の静粛性が保たれていない=ウィズコロナの時代においてリスクが高まる事が予想されます。
ご歓談に水を差すような事は致しませんし、開店より5年間、お客様同士の会話の音量で店舗に苦情が入った事はございません。今まで通り、ご安心してご利用いただけましたら幸いです。BGM音量を一つの目安と考えていただけましたら幸いです。