大人の図鑑カフェ

ボクを迎えに

ボクを迎えに

自分に関わる誰かに、
過去や未来へ手紙を届けられるとしたら、、、
皆さんは(自分を含めた)誰に、どんな想いを伝えたいですか?


少し前の定休日、大宮の造幣局見学の帰途、少し遠回りをして、
2年振りぐらいに、埼玉のJR南越谷駅(東武伊勢崎線では新越谷)で途中下車をした。

この街はほんの数年前まで、新卒で社会人になった頃の私が暮らしていた街だ。

初めての独り暮らし。
友達もたくさん出来たし、出会いも別れもたくさん有った。
そう、
寒い寒い冬の夜、
マフラーを分け合って双子座流星群を眺め続けたのも、この街だ。

身体を壊して職を辞し、
家業を継ぐことになって実家に戻るまで、
この街での想い出は、とにかく自由で、楽しくて、
夢も希望も山のようにあった。

だからかな、
数年に1回ぐらい、私は吸い寄せられるようにこの街を訪れる。

「あ、この道好きだった」
という裏道の記憶は、
地図を眺めるだけではなかなか思い出せない。

いつもわざわざ踏んでいたマンホールの蓋。
手を引っかけて角を曲がった道路標識。
当時は愉快な大人(25)だったんだなぁと苦笑しつつ。
その頃のボク(一人称はボクだった)を探すように、
心の赴くまま、
街中をグルグルと歩き回っては、
お気に入りだった店々に顔を出してきました。

改めて、ここは好きな街だなぁと。
街中にあふれる、ボクという幻影を探しては、
それをトレースする。

単なる”懐古”とはいえ、
フラリと吸い寄せられた今の私には
必要なことだったんだろうと思います。
その頃の自分がどう考え、
何を目指して生きていたのか。
街の空気を通して、少し思い出しました。

この街で暮らしていた頃の出来事を思い出すとき、
不思議と、カラダが熱に浮かれたような高揚感を帯びる。
なんだかザワつくような記憶の熱量は”潜熱”とでも言うのだろうか。
暮らし始めた季節、
春の嵐のイメージが体に染みついているからかもしれない。

布団しかないような部屋に、最初に届いた家電はパソコン。
一太郎すらインストールできていない状態で、
そういえばTXT文で引っ越し日記を書いたんだっけか、とか。
皆が集まる部屋になるように、と、
本屋の同期(のアクティブメンバー)の人数分、
食器も揃えたんだっけか。
知らない街を探検して地図を広げていく面白さもあったし、
なによりも、「限りなく自由だった」の一言に、尽きるのだろう。

いろいろと高揚する気持ちを保ち続けていた、
私としてはとてもとても大切な、街の記憶。

街の記憶と同化したボクは、
まだそこに留まりたいと言っていました。
確かに、
あの頃のボクには、この街でやり残したことが山のようにあった。
そんな、その頃のボクと話をして、
また少し、元気が出ました。

必要になったら、
また彼の地に出かけてこようと思います。

たぶんニッコリ笑って、
ボクが出迎えてくれることでしょう。
楽しみにしています。

帰途、
ボクと重なった部分の心が、
いくぶんか熱を帯びていることに気づいた。
いつも走って「何かを成したい」と思っていたあの頃の、
青い勢いが今、胸を灼きつつある。

腐ってる場合じゃない。

前へ!


この日記ともエッセイともつかない文章(部分修正)を書いたのは、2006年の3月。
そろそろ15年も昔のことになる。

それでも、今でも文章中のようにこの街を訪れては、
ボクの残影を探すことを止めようとは思わない。
(訪れるスパンは長くなってきている気がするけど)
着実に変わってゆく街並みを余所に、変わらないで在り続ける場所もある。
例え街並みこそ変わっても、鮮やかに甦る想い出がそこに、在る。

手紙を出すとしたら、、、と考えて、
やっぱりこの文章を書いた頃の少し不貞腐れていた自分に宛てたいかなぁと。

捨て鉢になって、夢の残像を追いかけて居た頃と、
今の私が訪れる理由も少しだけ、変わってきている。

今は、ほんの少しずつだけれど夢に一歩一歩近づいている感じがする。
だからこそ、初心に戻るために訪れる。
そこには懐古だけでは無い何かがあり、
その分、ボクの残影は薄くなってきている気がするけれど。

こうして、”(日記や)手紙を書くというのは自分自身と向き合う事”だと思う。
また、相手を案じて手紙を書くことで、
また自身も相手から案じられている事を知るだろう。

そんな営みが、”手紙を自筆で書く”事で自分の中で何かを
再発見するような。
それは、何度も失敗しては書き跡の残るような、
肉筆で在るが故の”生の声”で甦る。

年の瀬に、昨年届いた年賀状の束を見てみる。
添え書きさえない、印刷のみとなった”挨拶”を見て思う。
さて、心の声は何処に? と。

時間的にキツいのはわかる。
でもせめて、添え書きだけでも頑張ろう。
心を無くした印刷物を、相手に届けないために。